いじめ・メンタルヘルス労働者支援センター(IMC)




















  『本』の中のメンタルヘルス  海外




    イギリス
    「危険な仕事」に従事する者の死亡率は20世紀の兵士よりもずっと高い
     ジャック・ロンドン著『どん底の人びと ―ロンドン1903―』(岩波書店)

    生命をおびやかすものとして、無数の労働者が雇われている「危険な仕事」がある。こういうし
   ごとに従事する者の死亡率は20世紀の兵士よりもずっと高い。亜麻布産業では亜麻の処理に際し
   て足を濡らし、服をびしょぬれにしなくてはならぬため、、気管支炎、肺炎、悪性リューマチが多
   発する。さらに亜麻のもつれを除き、紡ぐ作業の段階では、細かいちりが肺の病気を起こすことが
   非常に多い。17.8歳でもつれ除きの仕事を始める女性は30歳でもう衰弱してしまう。また化
   学工場で働く者については、屈強の若者を選んで就業させているにもかかわらず、平均して48歳
   以下で死亡してしまう。
    アーリッジ医師は陶器業についてこう述べている――「陶器から生じるちりはすぐ人を殺すこと
   はなく、年月を経るうちに少しずつ肺にしっかりとたまって行き、ついに漆喰の壁が肺に中に生じ
   る。呼吸は次第に困難に弱々しくなり、最後に停止してしまう」鋼鉄のちり、石のちり、粘土のち
   り、アルカリのちり、綿のちり、繊維のちりなど、すべての人を殺す。機関銃や速射砲よりも危険
   度が高い。とくに危険なのは白鉛作業場の鉛のちりである。次に挙げるのは、白鉛作業場で働くこ
   とで、健康で体力にすぐれた若い娘が衰弱してゆく典型的な描写である。

    作業場で鉛のちりずっと体をさらしていたため、娘は貧血になる。歯ぐきにかすかに青い線が現
   れることもあるし、あるいは、歯も歯ぐきも異常がなく青い線も現われていないこともあろう。貧
   血になると共にやせてゆくのだが、それが日所言うにゆっくり進行するため本人も友人たちも気づ
   かぬほどだ。けれども病弱になり、頭痛に悩むようになり、それも痛みがどんどんひどくなる。さ
   らに視力が低下し、一時的に目が見えなくなることさえある。こういう娘は友人たちや医師の目に
   は普通のヒステリーのように映る症状を呈するようになる。これがいつの間にか悪化して、ついに
   突然けいれんに襲われるようになる。けいれんは、まず顔の半面に始まり、腕と同じ側の足にも及
   び、最後には、激しいてんかん性のけいれんが全身に及ぶのである。それと同時に意識も失われて、
   再びけいれんが続く。けいれんは次第に激しさを増してゆき、そのまま死に至る場合もある。死に
   至らぬ場合は、意識が完全に、あるいは、部分的に戻ることもある。意識の回復は数分、数時間、
   数日のこともあるのだが、その時は激しい頭痛を訴えるか、さもなけらば、急性病患者のように錯
   乱状態に陥り興奮するか、逆に憂鬱症のようにむっつりして、ぼうっとしている時には呼びさまし
   てやらなければならない。いずれにしても言語が不明瞭になる。脈拍と鼓動数はほぼ正常なのだが、
   打ち方が弱い。この脈拍が突如として微弱になる以外は、はっきりした前触れもなしに突然またけ
   いれんに襲われる。死亡するか、それとも覚めることのない昏睡状態に陥るかする。患者によって
   は、けいれんが次第に治まり、頭痛の消えて、一応回復することもあるけれど、視覚が完全に失わ
   れる。失明は一時的なことも永久的なこともある。


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