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アメリカ
テイラーによる「科学的管理法」
鈴木直次著『アメリカ産業社会の盛衰』
19世紀半ば以降、製造業には工場制度が広く普及し機械化も進んだ。だが多くの工場の管理
は、旧来通り、熟練労働者に委ねられていた。それは主として、当時の企業主の多くが商人ある
いは技術者の出身であり、工場管理のノウハウを全くもちあわせていなかったうえ、それに関心
も時間もなかったためだった。……
アメリカは、土地にはじまり、水や木材、鉱産物などの天然資源が豊富だった反面、開発すべ
き資源に対して労働力が希少であり、慢性的に不足していた。……ヨーロッパのように手工業が
充分に発展せず、職人の養成制度も充分に整備されていなかったため、熟練労働者の供給は限ら
れていた。……従ってアメリカでは、当初から、機械の徹底した利用によって労働力を節約する
生産方式が選好された。とくに熟練工ばかりでなく、単純労働までを節約しようとしたことがア
メリカの特徴だった。……
自動車など数多くの部品からなる工業製品を大量かつ低コストで生産するためには、まずなに
よりも専用の工作機械を用いて、まったく同じ形状をもち、相互に取り替え可能な交換性部品を
大量に用意することが必要だった。
フレデリック・ウィンスロー・テイラーはこのようなアメリカ産業社会において「テイラー主
義」と呼ばれる「科学的管理法」を開発します。
(科学的管理とは)機械技術の『時間・動作研究』を通じて最も能率的な作業方法と作業時間
を発見し、それを労働者たちに教え込むことによって生産効率を飛躍的に高めようとすることで
した。換言すれば、それまで職長と熟練工の手に握られていた生産過程に対する支配権を管理者
へと取り戻し、後者の一元的な管理のもとで生産量を大幅に増加させ、生産の取り分をめぐる労
使ないし職長と一般労働者との不毛な対立を科学的に解消しようと狙ったのである。……
テイラーを主役とする1880年代の『生産性革命』は、産業革命と並ぶ資本主義の重要な転
換点のひとつにすらあげられているのである。他方、テイラー主義についての代表的な研究のひ
とつであるブレイヴァマンの『労働と独占資本』では、それは労働者から知的労働を奪い、肉体
労働を単純化させることによって、彼らの生産過程に対する支配力を失わせ、資本への隷属と疎
外を深めさせた原因とされた。
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