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フォードと労働者
D.ハルバースタム著『覇者の驕り』
アメリカ的製造方式と科学的管理をさらに洗練して生産システムの大枠を完成させたのが19
00年代初めのいわゆる「フォーディズム」と呼ばれたフォードの大量生産方式です。
フォード社の初期の労働者たちは、熟練した職人であり、働きながら設計図をいじくりまわす
ような人たちだった。……
しかし製造工程の機械化によって作業場は変わった。機械化された新しい仕事には熟練はさほ
ど要求されず、仕事で与えられる満足感も少なかった。……工場が機械化されればされるほど、
ますます労働者の工場離れが起きたのである。遂にはフォード工場でストライキが始まった。
……
彼(ヘンリー・フォード)は“フォード社会学班”と呼ばれる社内のグループを使って、労働
者をチェックさせ、家で酒を飲んでいるかどうか、組合の同調者ではないかどうかを調べさせた。
もしどちらかに当てはまる者がいれば、解雇させられた。このフォード社会学班と呼ばれるグル
ープは、当初、金銭や健康など個人問題で困っている労働者を助けるためにスタートしたといわ
れるが、いつか労働者をスパイするという陰険な道具と化したのであった。……彼は、労働とい
うものを最も単純な言葉で考えていた。“統制”である。……
そして重役たちに対しては「お互いを競争させては喜ぶのである。」「そして、結果として起
こる2人の争いを眺めては楽しむのである。
……
工場の現場を取り仕切る職長は、その能力で選ばれるものだったが、だんだん腕力のある者が
選ばれるようになった。のろのろ働いている労働者がいると、職長にすぐ殴り倒された。仕事中
はお互いに私語を交わしてはならないという規制も、厳格になった。労働者の心を不安にしてお
くことが、極めて重要なことだった。
……
大規模な機械化が行われていた1913年、労働者の転職率は380パーセントにものぼり、
まもなくさらに悪化した。
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