いじめ・メンタルヘルス労働者支援センター(IMC)




















  『本』の中のメンタルヘルス  軍隊・戦争




   「社会的組織とは個人の破壊に対する最大の防衛」
     エイブラム・カーディナー著『戦争ストレスと神経症』(みすず書房)

    外傷神経症のほとんど唯一の古典で、PTSD概念構築作業となった。第一次大戦の症例に第二
   次世界大戦の経験と症例とを加えて1947年に第二版が出版されました。

    戦争のもたらすストレスは、これを三分して(1)生理学的、(2)社会的、(3)情動的スト
   レスとすればどうだろうか。
    最大のストレスは全面的あるいは部分的自己破壊という現実の危険である。他のすべてのストレ
   スを圧する重大なストレスがこれであり、ストレス反応の大部分はこれを中心としている。他のス
   トレスはすべて修飾因子である。
    ……
    実は社会的組織とは個人の破壊に対する最大の防衛であり、穏やかな形での生存継続の最大の保
   証である。社会的組織によって協力が得られることからこそ個人は外的世界を飼い馴らし、友好的
   とし、人間の要求に奉仕するものにして、そこからシステマチィックに利益を得て、生存の可能性
   を高められるのである。以上の平和時の保証が戦時にはことごとく中断する。……
    生理学的条件とは、主に食事、睡眠、休息、リラクセーション、活動の変化と、衛生状態のこと
   である。………温かくない食事は兵士の楽しみを奪い、不快感をつのらせ、忘れられているという
   感じを強め、兵士の先頭能力と気分を低下させる。
    食事に非常に近い因子は疲労である。平和時の習慣は一切無視されてしまう。睡眠はとれる時に
   とるようになる。睡眠の機会があっても、警戒心をゆるめてよいという保証はない。兵士が耐えな
   ければならないことでいちばん消耗を強いられるのが普段の警戒心であろう。……
    リラックスする機会はめったに訪れてこないが、もしあっても兵士の置かれた状況がもたらす筋
   肉と感情の硬ばりを軽くしてくれない。リラクセーション技法のなかでとりわけ大切なのは色々違
   う活動をすることであるが、後方勤務でもなければ、そもそもありえない。
    兵士の生活の社会的側面は本来的に複雑である。まず、チームの一員にならなければならないが、
   なれる能力には大きな上下幅がある。しかも、個々の兵士が所属チームに自分をつなぐきずなは現
   下の状況をしのぎとおす上で何よりも重要である。よいチームというものにはそれぞれ特有の士気
   力がある。それは戦争目的のための士気力ではなく、もっぱら相互援助のための士気力である。
    ……
    軍隊に入って新しく生まれたきずながいかに良くても、兵士と家族や故郷とのきずなには替えら
   れない。家族や故郷とのきずなを保っていると苦難に耐える力が格段に大きくなる。だから家庭や
   故郷にいる人たちが無関心であったり、不貞を働いたり、国家に忠誠を誓わなくなったり、どうで
   もよいという態度であるのがわかると、兵士の耐久力が低下する。
    郷愁は兵士の士気崩壊の主役になることがある。郷愁に近いものに孤独感があり、これに罹りや
   すい兵士は少なくない。ピンアップ・ガールは郷愁、孤独感、性的隔離からの幻想的逃避の凝縮で
   ある。
    ……
    ストレス因子に対する防衛の最たるものは訓練である。訓練は兵士の身を守るように計算された
   ものである。教わる新しい適用法とは、攻撃兵器と防衛兵器の使用法の要領であり、戦車、野砲、
   航空機、潜水艦、戦艦のような複雑な兵器を操作する共同作業に必要なチームワークである。この
   チームこそ、軍隊の真の単位である。いったんチーム全員の安全が全員の能力と緻密な共同行動の
   如何によるものだということが自覚されれば、高度の責任感、全員の一心同体感が生まれ、平和時
   の社会的バリヤーを急速に打破して共通の忠誠心が生まれるようになる。社会階級が大きくかけ離
   れた者同士でも献身的なチームメイトになる。強力な心のきずなをつくる力は距離が遠くなれば生
   命力を失う。ただのシンボルになるにつれて色あせる。この時はシンボルの意義を大いに強調して
   補強しなければならない。

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