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アメリカ
1年後、ホゼ・レイは三度目に戻ったイラクで、自分の頭を撃ち抜いた
フィル・クレイ(著) 小説『一時帰還』 岩波書店 2015年刊
12編の短編が収められています。軍や隊、兵士の戦闘場面や手柄を取り上げたものではあり
ません。兵士の心情を描いていますが兵士の心情を一般化したものではありません。
作者自身が海兵隊員としてイラク戦争に派兵されました。その体験とたくさんの兵士に取材し
た1人ひとりの兵士の心情をそのまま描いています。
私たちの15番目の戦死者はチャーリー中隊から出た。ニコライ・レヴィン。海兵隊員たちは
怒り狂った。彼が死んだからというだけでなく、最上級曹長がレヴィンに落ち度があると言った
からだ。
『俺は友達を作りにここにいるんじゃない。海兵隊員たちを生かしておくためにいるんだ』と
最上級曹長は言った。レヴィンの死後、数日しか経っていないときに、兵士たちを叱咤したのだ。
『実際のところは……』……
最上級曹長は、ほかのほとんどの人たちと同様に、死が説明できるものであってほしいのだ。
戦死者1人ひとりに理由を求める。……
イラク派兵を終える頃には、私たちは100人を超える戦傷者を出していた。死者は16人だ
った。……
私にとってアメリカでの最大の義務は、16人の戦死者の追悼式を執り行うことだった。
……
帰国後2か月して、ジェイソン・ピーターズが戦傷に屈し、死傷者の数は17になった。ピー
ターズを病院に訪ねたことのある者は、誰もがこれでよかったといった。彼は両手と片脚を失っ
ていたのだ。……
その後の数か月間、数年間に、さらに何人かが死んだ。1人の海兵隊員は交通事故で、1人は
休暇中に喧嘩し、刺殺された。
犯罪や麻薬の使用もあった。ジェイムス・カーターとスタンリー・フィリップスは、カーター
の妻を殺し、死体を切り刻んで、自分たちで掘った小さな穴に埋め込もうとした。もう1人の海
兵隊員はコカインでハイになり、AR-15でナイトクラブを襲撃、1人の女に重症を負わせた。
コカインをやると自分が無敵のような気分になる。ピリピリと警戒している老練兵にとっては、
それがいいのだろう。しかし、そのあとに起こることは気に入らないはずだ。海兵隊から追い出
され、PTSDの治療でVA(復員軍人局)の医療サービスを受けたくても、受けられなくなる。
その手のことは大隊で5、6人の海兵隊員に起こる。そのため兵士たちは尿検査で見つかりにく
い薬物に切り換え始める。
最初に自殺したのはエイデン・ルッソだった。休暇中に自分の拳銃でやった。……
5か月後、アルバート・ベイリンが薬を使って自殺した。ベイリンもルッソも、チャーリー中
隊出身だった。
1年後、ホゼ・レイは三度目に戻ったイラクで、自分の頭を撃ち抜いた。
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