いじめ・メンタルヘルス労働者支援センター(IMC)




















  『本』の中のメンタルヘルス 軍隊・戦争




    アメリカ
    ブッシュ大統領呼には兵士たちには見えないものが見え、
       兵士たちに見えるものが見えなかった
    デイヴィッド・フィンケル (著), 古屋 美登里 (翻訳) 『兵士は戦場で何を見たのか』
    亜紀書房 2016年刊

    2003年から2010年まで、8年に及ぶイラク戦争で死亡した兵士の数は、イラク治安部
   隊を含めた連合軍側もイラク側も、それぞれ2万数千人に及ぶ。負傷者はおよそ11万人である。
   そしてアメリカ兵士の死傷者数がもっとも多かった年が、増派によって駐留するアメリカ兵の数
   が増えた2007年だった。
    2007年7月のバグダット東部です。

    戦闘開始から1478日目にあたるこの日(200年4月6日)には、死亡した兵士の総数は
   3000人を超え、負傷した兵士は2万5000人にせまり、アメリカ市民が当初抱いていた楽
   観的な見方が消えてからだいぶ経ち、開戦へと導いた誤算と歪曲が詳細に暴かれ、開戦以来ずっ
   と戦争を推進してきた政治的失態も露わになっていた。
    ……
    亀裂は、マーチの所属する中隊だけでなく、第二大隊全体にわたって現れ始めていた。6月も
   ひどかったが、7月はさらに最悪な事態が1週間続き――即製爆弾(IED)、銃による襲撃、
   ロケット弾攻撃などが42回に及んだ――重傷者こそ出なかったものの、攻撃されたことによる
   明らかな変化が現れていた。従軍牧師のところには、内密の相談をするために深夜ドアを叩く兵
   士が増えていた。そのうちのふたりは自殺をほのめかした。基地の精神衛生のカウンセラーたち
   が睡眠補助薬と抗鬱剤の処方を書く回数が増えていった。驚くほどの数ではない、と牧師やカウ
   ンセラーはカウズラリッチに報告したが、万全の注意を払うことになった。規則違反がなされて
   いるという噂も増えてきたので、『福利厚生』の全体調査がおこなわれ、立派な兵士が所持して
   はならないあらゆる物が発見された。……
    そしてカウズラリッチ(合衆国陸軍中佐)とカミングズが考えていたのは、最初の亀裂が生ま
   れたのは戦争のせいなのか、それとも陸軍が間抜けな馬鹿どもを入隊させざるをえなかったせい
   なのか、ということだった。
    ……
   『お偉いさんたちが生きている世界ってどんなとこだろう、って俺はときどき思うね。俺たちが
   勝っているとでも思っているのかね』ギーツがある日言った。
   『新兵でそんなこと信じてる奴なんかひとりもいやしねえよ』と彼は続けた。『奴らは傷ついて
   る。怖がっている。強がりなんて求めていない。理解してほしいと思っている。『俺も怖いんだ
   よ』って言っている人を求めている』
    敗将カウズ。ある小隊の兵士たちはカウズリッチのことをそう呼び始めた。怒りの矛先を向け
   る対象をだれもが求めていた。
    ブッシュ大統領。ブラヴォー中隊所属のある小隊の兵士たちは、カウズラリッチのことをそう
   呼んだ。それはカウズラリッチには兵士たちには見えないものが見え、兵士たちに見えるものが
   見えなかったからだ。
    ……
   『何が起きたのかよく考えるようになった。そしてどうして俺はこんなところにいるんだろうっ
   て思うようになったんだ』とウィーラーは言った。『意味ねえよな。テレビでは、兵士たちは好
   きでここに来ているみたいなことを言っているだろう? みんながみんなそうじゃねえとは思う
   が、俺たちがここにいるべきだなんて思っている奴やここにいたいと思っている奴の名前を挙げ
   てみろよ、ひとりもいやしねえだろうよ。このくそおもしろくもない国にはひとりもいねえよ。
   出世したいとか勲章もらいたいとか、昇級したり名を挙げたいと思っている奴は別だけどな。で
   も、ここにいたいなんて奴ひとりもいやしねえよ。意味がないんだから。ここにいて何かいいこ
   とあるか? 何もねえよ』」


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