いじめ・メンタルヘルス労働者支援センター(IMC)

















    労 働 災 害  脳・心臓疾患労災  過労死・過労自殺

     「ぼくの夢」

  大きくなったら
  ぼくは博士になりたい
  そしてドラえもんに出てくるような
  タイムマシーンをつくる
  ぼくはタイムマシーンにのって
  お父さんの死んでしまう
  まえの日に行く
  そして「仕事に行ったらあかん」
   ていうんや

     (父親を過労自殺で亡くした
      小学1年生のマー君が書いた詩)

   詩は、2013年4月30日にジュネーブ
  で開催された国際人権規約のなかの社会権規
  約の実施状況について日本が審査される会場
  で、過労死家族の会が英訳して関係者に配布
  しました。

      My Dream
  Growing big enough,
  I want to be a doctor for devising
        a Time Machine,
  there shows up “DORAEMON”.
  Riding on the time machine,
  I’ll come up to my papa on the just
        previous day of his dying,
  and going to shout,
  “Don’t go to work”.

   

      「労働組合が死んでいたのが悔しい」

   過労死弁護団全国連絡会議代表幹事の松丸正弁護士は、今、全国各地で過労死
  ・過労自殺の事件を担当しています。2012年10月に開催された、全国労働
  安全衛生センター第23回総会で講演をしたいただきました。

   過労死問題に取り組むきっかけは1980年代に、タクシー運転手の過労死事案
  を労災申請した時からです。認定率がかなり低かった時です。88年6月に、弁護
  士や医師、労働組合と「大阪急性死等労災認定連絡会」を結成します。遺族の駆け
  込み寺でいいと捉えていました。
   1988年に「過労死110番」を開設したら電話が鳴り続けました。相手は4
  0代、50代の妻たちです。その時に最初に対応したのが、××の事案です。24
  名の部下を持つ班長は年間労働時間3.700時間、拘束時間4.000時間を超え
  ていました。妻は会社に直訴しようと門前まで何度も行きますがそこで佇んでしま
  います。夫の立場を考えてでした。
   労災申請に対し会社は「過重労働は会社が強いたのではなく自分が強いた」と発
  言しました。高校生だった息子は「お父さんは労働組合があるところで働きたいと
  いうことで××に入社した。しかし労働組合が死んでいたのが悔しい」と語りまし
  た。その話を聞いて過労死問題に取り組むようになりました。







全国過労死を考える家族の会
ホームページ



  ◇ 世界人権宣言・社会権規約
   が、過労死・過労自殺問題で
   日本政府に懸念を表明

   世界人権宣言に基づく社会権規約
  は、労働などの社会権を保障するた
  めの守るべき労働条件に「休息、余
  暇、労働時間の合理的な制限、定期
  的な有給休暇」などを明記していま
  す。締約国は、取り組みの進捗状況
  を定期的に審査されます。

   2013年は日本が審査対象にな
  りされました。日本政府は事前に提
  出した報告書で、労働基準法によっ
  て遵守と主張していました。
   これに対して国際人権活動日本委
  員会はカウンターレポートを提出、
  各国の審査委員とミーティングを行
  いました。
   社会権規約委員会は4月30日に
  日本政府の報告書を審査し、審査最
  終日の5月17日に総括所見を発表
  しました。
   その中の17項で過労死・過労自
  殺について言及しています。日本政
  府に対し「多くの労働者が長時間労
  働に従事していることと、過労死や
  精神的なハラスメント(嫌がらせ)
  による自殺が職場で発生し続けてい
  ることを懸念する」とし、立法措置
  を含む新たな対策を講じるよう勧告
  しました。


    「社会権規約の総括所見」
    『産経新聞』記事
    「第3回政府報告」
    「カウンターレポート」
    ≪活動報告≫ 13.7.9



  判例 大庄の過労死事件

  会社法第429条に違反する
  として取締役らの善管注意義
  務違反が認められる

  「当裁判所は、控訴人会社の安全配慮義
  務違反の内容として給与体系や三六協定
  の状況のみを取り上げているものではな
  く、控訴人会社の労働者の至高の
  法益である生命・健康の重大さに鑑みて、
  これにより高い価値を置くべきであると考慮するものであって、控訴人会社
  において現実に全社的かつ恒常的に存在
  していた社員の長時間労働について、こ
  れを抑制する措置がとられていなかった
  ことをもって安全配慮義務違反と判断し
  ており、控訴人取締役らの責任について
  も、現実に従業員の多数が長時間労働に
  従事していることを認識していたかある
  いは極めて容易に認識し得たにもかかわ
  らず、控訴人会社にこれを放置させ是正<
  正させるための措置をとらせなかったこ
  とをもって善管注意義務違反があると判
  断するものであるから、控訴人取締役ら
  の責任を否定する上記の控訴人らの主張
  は失当である。なお、不法行為責任につ
  いても同断である。」(大阪高裁 2011
  年5月25日判決 会社側の控訴を棄却
  (労働判例1033号))

   会社法
   (役員等の第三者に対する損害賠償責
   任)第429条 役員等がその職務を
   行うについて悪意又は重大な過失があ
   ったときは、当該役員等は、これによ
   って第三者に生じた損害を賠償する責
   任を負う。
   ≪活動報告≫ 2011.7.20


      脳 ・ 心 臓 疾 患 の 認 定 基 準

 ☆ 改訂「脳・心臓疾患の労災認定の基準」
    厚労省 2021年9月16日
    2021年9月15日から改訂「脳・心臓疾患の労災認定の基準」運用されます。
    改正基準は、過労死ラインに近ければ、終業から次の始業までの休息が11時間未満
   だったり、身体的負荷、連続勤務といった労働時間以外の要因が認められたりした場合
   などの場合は、他の要因も勘案しながら総合的に労災認定できると明記しています。
   「脳・心臓疾患の労災認定の基準」

 ☆ 「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」
    厚労省 2021年7月16日
    厚労省は、2021年7月16日「脳・心臓疾患の労災認定の基準に
   関する専門検討会報告書」を公示しました。
    今後の新しい「脳・心臓疾患の労災認定の基準」となります。
    「報告書」これについて、過労死防止学会会員の高田勢介さんが、わかりやすくコン
   パクトに解説をしていますので紹介します。
    「報告書」は、起きてしまった災害についての認定にだけ焦点をあて、現状の労働条
   件の追認になってしまっています。せっかくの専門検討会ですので、その根本的原因の
   解消にまで踏み込んで、労災の減少に向けた取り組みを提起したらもっといい報告書に
   なったように思われます。
   「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」
   「『過重負荷』と『疲労の蓄積』による過労死業務の過重性の総合評価」


 ☆ 脳・心臓疾患の認定基準の改正について
    平成13年12月12日
    脳・心臓疾患の認定基準
    この中の
    (別添) 「脳・心臓疾患の認定基準の概要」
    4 認定要件の運用
    (2) 過重負荷について
     ウ 長期間の過重業務について
     (ウ) 過重負荷の有無の判断
       ……
     その際、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目する
    と、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、具体的には、発症日
    を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、 ……
    (2) 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間に
    わたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、
    業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断すること。
    を「過労死ライン」と呼んでいます。

    「脳・心臓疾患の労災認定 『過労死』 と労災保険」
    「脳・心臓疾患の労災認定」

 ☆ 脳・心臓疾患の労災認定実務要綱
    脳・心臓疾患の労災認定実務要綱

 ☆ 平成27年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況まとめ
    平成27年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償
 ☆ 平成26年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況まとめ
    平成26年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償
 ☆ 平成25年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況まとめ
    平成25年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償
 ☆ 平成24年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況まとめ
    平成24年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償
 ☆ 平成22年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況まとめ
    平成22年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償


 ☆ 「『過労自殺』 を巡る精神医学上の問題に係る見解」
    日本産業精神保健学会 「精神疾患と業務関連性に関する検討委員会」
    18年12月20日
    「『過労自殺』 を巡る精神医学上の問題に係る見解」


 ☆ 過労死・過労自殺救済の労災補償法理
    ―過労死・過労自殺労災認定の現状と今後の課題―
     弁護士 岡本 親宜
     添付: 「過労性脳・心臓疾患労災認定基準改正試案 (岡本試案)
     (『季刊労働法』209号 (2005年夏季))


      << 論 文 ・ 報 告 ・ 資 料 等 >>

 ◆ 本『企業中心社会を超えて』
     大沢真理 著  岩波現代文庫 2020.8
   「・・・
    だが、事態はここでドンデン返しとなる。石油危機による不況と低成長のもとで、
   『成長よりも福祉を』の世論はあっけなくしぼんだ。賃上げ自粛、『我慢』、『減量
   経営化』、『福祉見直し』などの合言葉が広く受容されていった。・・・合理化の渦
   中での生き残りをかけて競争と効率への一辺倒、会社優先が、社会のすみずみまで及
   んでいったのはこの時期だった。実際、高度成長期には減少し続けていた労働時間が
   一転してやや増加、そして横ばいのパターンに転じるのは1975年である。
    このように、今日欧米諸国との比較で問題になる日本の長時間労働、『過労死』問
   題そのものが、すぐれて石油危機以降のものであることに注意しなければならない。
   ・・・ついで企業主義の矛先は、巨額の財政赤字をかかえながら『ぬるま湯』の労使
   関係にひたり続ける公共部門に向かった。つまり、福祉国家の減量合理化である。
   ・・・この『福祉見直し』の文脈で社会保障制度の全分野にわたっておこなわれた改
   革と、国鉄、電電など公共企業体の民営化・組合潰しが、1980年代の『行政改革』
   の両輪をなす。それは企業中心社会の総仕上げにほかならなかった。」
    ≪活動報告≫ 2021.5.187


 ◆  『平成29年版 過労死等防止対策白書』
    「過労死等防止対策白書」
    ≪活動報告≫ 2017.9.5

 ◆  『過労死等防止対策白書』
     2016.10.7
    2014年6月20日に「過労死防止対策推進法」が成立しました。その第六条は
   (年次報告)「政府は、毎年、国会に、我が国における過労死等の概要及び政府が過
   労死等の防止のために講じた施策の状況に関する報告書を提出しなければならない。」
   と謳っていることによるものです。「白書」は今回が初めてです。
    法はまた第七条で「過労死等の防止のための対策に関する大綱」を定めることを謳
   っています。15年5月25日に「過労死等の防止のための対策に関する大綱 ~過
   労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ~」(案)が作成さ
   れました。
    「大綱」は、これまで個別に取り扱われてきた長時間労働やストレス、メンタルヘ
   ルス対策などの問題を集約的に取りまとめたもので新しいものは見当たりません。し
   かし個別的課題にほかの課題に連関させ、さらに大綱作成のために5回開催された過
   労死等防止対策推進協議会の議事録と提出された資料を合わせて読み通すと本質的問
   題が浮き彫りになりました。
    これまでの個別的対応、しかも法律ではなく強制力のない「通達」等の限界の状況
   が露呈されました。
    「白書」はこれらの経過報告と一緒に、これまで様々な部署から個別に発表されて
   きた調査結果を集めています。
    「過労死等防止対策白書」
    ≪活動報告≫ 2016.10.7


 ◆ 「大手自動車メーカーでの過労を原因とする
    死亡に関する調査結果」
    JILP 国際労働トピックス 17.12.
   「業績好調の陰で、日刊紙ル・パリジャンと労働組合CGTが共同で行った調査結
   果によると、ルノーのフランス国内の4事業所において、2013年以降、過労が
   要因と考えられる自殺者や自殺未遂者が10人以上いたことが判明した(注2)。
    最近では、フランス北西部ノルマンディー地方の工場で、17年4月に製造現場
   の労働者が工場内で首つり自殺を図った事例がある。同社では経営合理化を目的と
   する競争力強化プランが2013年から実施されており、労働条件が悪化したこと
   が今回の従業員自殺に影響しているとの指摘もある。
   「大手自動車メーカーでの過労を原因とする死亡に関する調査結果」


 ◆ 過労死等防止対策に関する調査研究について
    厚生労働省
    過労死等は、要因が複雑で多岐にわたっており、その発生要因について明らかでな
   い部分も少なくありません。こうしたことから、国は、実態解明のための調査研究を
   行い、過労死等防止のための取組に活用できるよう、情報発信していくこととしてお
   ります。
    「過労死等防止対策に関する・・・」
   ・平成28年度 過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の
    調査研究事業 「報告書」
    「28年度 過労死等に関する実態把握・・・」
   ・国家公務員の公務災害事案の分析
    「国家公務員の公務災害事案の分析」
   ・地方公務員の公務災害事案の分析
    「地方公務員の公務災害事案の分析」


 ◆ 過労死防止学会 国際シンポジウム報告
    精神医学から見た日本の過労自殺対策と過労死防止法
     天笠 崇(代々木病院精神科医師)
   「職業上の問題とうつ病発症の因果関係を解明した研究結果を示した表です。職業上
   のライフイベント、日本語では「生活上の出来事」と訳されますが、それが発生した
   月のオッズ比が、3.12倍。3ヶ月後では、3.58倍などと解明されています。で
   すから、「職業上の問題」は、うつ病罹患に対し、中程度の大きさ、ないしは強さの
   原因となります。
    ちょっと細かな表で見にくくて恐縮ですが、仕事の高い要求度、低い裁量度、低い
   支援度と、うつ状態発生の関係を解明した研究です。左側の表が男性、右側の表が女
   性の結果です。左側の男性の場合、高い要求度が1.77倍、低い裁量度が1.38倍、
   低い支援度が1.58倍。そうした仕事に従事していた場合、1.77×1.38×1.
   58で、約4倍となって、こうした労働は、うつ状態の発生に対して、中等度から強
   い原因となることが解明されています。
   「精神医学から見た日本の過労自殺対策と過労死防止法」


 ◆ 新聞記事 「『ワーカホリックの国』韓国も羨む『バカンス大国』
     フランス… それでも過労死が存在する不思議」
    産経新聞 2016.6.17
   「『週35時間制には問題が2つある』と、ルシュバリエ氏は解説した。
    1つ目は、労働時間の概念。『どんな時間も生産的に過ごさねばならない』『調整
   時間やサービスの質を上げるための時間は、必要ない』という考え方が広まっている
   ことだ。
    もう1つが『作業再編』。効率を上げるためとして、経営側が労働者に強いストレ
   スをかけて管理したり、仕事を増やして効率を上げさせようとしたりすることを指
   す。」
    「『ワーカホリックの国』韓国も羨む…


 ◆ 新聞記事 「新・過労死大国は中国…それでも海外が日本の
    「karoshi」に注目する意外な理由」
    産経新聞 2016.5.31
   「シカゴ・トリビューンの記事は日本人を企業戦士になぞらえ、高度成長の負の遺産
   としてとらえていた。
    だが、ロイターが配信した記事の通り、30年近く経過した現在は過労死・過労自
   殺を取り巻く環境が変化。海外に目を転じれば、中国でも続発している。
    中国中央人民放送(電子版)は2012年10月、中国国内では毎年60万人が過
   労死しており、すでに「日本以上の過労死大国になった」と報じた。」
    「新・過労死大国は中国…


 ◆ 報告書 「平成27年度厚生労働省委託
    過労死等に関する実態把握のための 社会面の調査研究事業」
    平成28年3月  みずほ情報総研株式会社
   「調査の背景・目的
    第186回通常国会で議員立法として提出され、全会一致で可決成立した『過労死
   等防止対策推進法』においては、基本理念として『過労死等に関する実態が必ずしも
   十分に把握されていない現状を踏まえ、過労死等に関する調査研究を行うことにより
   過労死等に関する実態を明らかにし、その成果を過労死等の効果的な防止のための取
   組に生かすことができるようにする』とされているところである。
    過労死等の実態を把握するためには、医学面の調査研究だけでなく、長時間労働の
   実態、企業の取組等、社会面の調査研究も必要である。本事業は、『過労死等の防止
   のための対策に関する大綱』(平成27年7月24日)において、国が取り組むべき
   重点対策の一つとして示されている過労死等の実態把握のうち、社会的側面からの調
   査・分析を行うものである。
    「過労死等に関する実態把握のための 社会面の調査研究事業」
    ≪活動報告≫ 2016.8.26


 ◆ 新聞記事 連載 【過労死の国・日本-労組の存在意義】
    産経新聞 2013.7.24~7.30
    「過労死の国・日本(2)」
   「過労死・過労自殺の遺族たちが求めている予防もある。『過労死防止基本法』の制定だ。
    弁護士らとともにまとめた素案には、国が過労死を『あってはならないこと』と宣言し、
   実態調査や総合対策を行うことを盛り込んでいる。
    遺族たちは、議員立法を呼びかけて超党派の国会議員を訪ね、院内集会を計7回、開催し
   た。「全国過労死を考える家族の会』代表、寺西笑子(64)は言う。『職場の実情を最も
   良く知る労組でなく、なぜ私たちが前面に立たねばならないのか』」

    産経新聞 11.8.8~8.12
    「過労死の国・日本(1)」
   「『長時間労働を許す三六協定が、過労死の温床になっている』
    これは今も変わらぬ松丸の持論だ。
    しかし、悟の勤務先である椿本精工(現ツバキ・ナカシマ)の三六協定が、労基署から開
   示されたときばかりは、さすがの松丸も目を疑った。
    残業可能な時間を『1日15時間』で労使が合意していたからだ。それは、法定の労働時
   間8時間と休憩1時間を足せば、実質24時間働いても合法になることを意味していた。
    三六協定の存在は、国際労働機関(ILO)が採択した労働時間に関する条約約10本の
   うち、日本が一本も批准していないことと密接に関係している。」


 ◆ 連載報告 「働く人と健康 フランス在住ジャーナリストの
    立場からプシコソシオ問題 (職場のメンタルヘルス) で闘いを
    開始したフランス」
     ジャーナリスト・山本三春
     『公衆衛生』 2010年1月~3月
   ①過労自殺の歴史とテクノサントル・ルノーの悲劇
     フランスで労働関連自殺 (過労自殺) が急増し、衝撃が広がっている。
     なかでも、2008年2月以来自殺が相次いでいた電話通信のフランス・テレコムは2
    009年10月15日、ついに20ヶ月で25人目の犠牲者を出すに至った。

     2002年1月に施行されたいわゆる「モラルハラスメント」法規制を含む「労使関係
    現代化法」の制定によって、少なくても3つの重要な成果をもたらした。
     1つは、罰せられるようになったことで、犠牲者自身が苦悶を乗り越え、堂々と提訴し
    て救済される事例が増加した。
     2つ目は、判例が蓄積してきたため、何をすると認定されるか具体的に明確になってき
    て、雇用者、管理職、一般職員に至るまで“してはいけないことの自覚が高まり、抑止効
    果が生まれている。
     3つ目は、モラルハラスメントが原因で労働災害に認定されるようになると、職場での
    予防、改善するうえでの巨大な武器となっている。
     このような成果を上げています。
    ②CHSCTと専門鑑定の経験
     フランス・テレコムの悲劇を防げなかった厳粛な事実をふまえ、新たな戦いを開始して
    いる。
     その一つが、雇用者責任(企業責任)を厳しく問う闘いだ。
     「従業員の健康の権利は、たのすべての権利に優先する。この基本理念に立てば、それ
    を侵害した雇用者は、許されない過ちを犯したころになる」からである。この観点に立っ
    てフランスでは、「雇用者の許しがたい過ち」を裁く方向が強まっている。
   ③雇用者の許しがたい過ちと神話の崩壊
     ルノーで強度のうつ状態から自殺した労働者の遺族が「雇用者の許しがたい過ち」で告
    訴した。社会保障問題裁判所は「ルノーは、職業活動実践んという事例が引き起こしうる
    リスクから従業員からまもるために必要な諸措置をとらなかった」と判断して「雇用者の
    許しがたい過ち」を認定、遺族に1ユーロの慰謝料を払うよう命じた。


 ◆ 報告 「パリの窓から 第6回・09年10月21日
     『仕事のストレスが人を殺す』」
    ジャーナリスト・飛幡祐規
    (「レイバーネット」)
    「パリの窓から」


 ◆ 新聞記事 「ルノーで従業員連続自殺 『ゴーン改革』 引き金か」
    (『産経新聞』 07.3.6)
    「ルノーで従業員連続自殺」


 ◆ 報告 「アメリカこそ過労死大国だ」
    ジャーナリスト・マシュー・リース
     (『論座』 03.9)


   = 本 =

 ◇『職場砂漠』 働きすぎの時代の悲劇
    岸 宣仁著 朝日新書 (2007.7)
   「くしゃくしゃになった紙に、鉛筆でこう走り書きがなされていた。

    『怒られるのも 言い訳するのも つかれました。
     自分の能力のなさにあきれました
     申し訳ありません。
     (妻)へ
     決して労災などで訴えないでくれ
     ごめん
     (同僚の名前を列記したあとに)
     力のない上司で申し訳ない』
     ……
    業績検討会では、部長らの追及は2時間以上にわたって続いた。直属の部下によると、
   『業績検討会』とは名ばかりで『いじめ』に終始した。所長はほとんど発言せず、しゅん
   とした様子のままだった。帰り際、支店の幹部はさらに追い打ちをかけた。
   『このままだと、営業所がなくなってしまうぞ』
    ……
    当時の(自殺した)所長の心理状況を推し量りながら、直属の部下がこう言う。
    『ウチは利益第一主義ですから、実績を残せない者はどんどん潰されていきます。所長
   はこの営業所に来るまで実績を積み上げてきたひとだけに、いざ所長になって、ここで汚
   点を残すわけにはいかないと思ったのではないでしょうか。『お前なら立て直しができる
   だろう』と重い看板を背負わされ、実績が上がらない営業所なのに必要以上に過大な期待
   をかけられたのです。だから、その期待を裏切れないと、無理をしてでも事業計画の成績
   目標を高めに設定せざるを得なくなったのだと思います』」



 ◇ 『過労自殺と企業の責任』
    川人 博著  旬報社 (2006.8)
   「19歳で入社した高沢さんは、本人の努力にくわえて運にも恵まれ、業績を挙げた。そ
   の結果、入社2年目で係長になり、さらに入社4年目で課長補佐の内示が出て、部下も付
   くことになった。また、それまで石を顧客としていたが、教育者関連の顧客が中心となっ
   た。こうした労働環境の変化が、若い高沢さんを精神的に追い詰めていくことになる。
    自分より年上の部下を指導することが大変なストレスになり、定着の悪い部下の教育・
   管理にも悩んだ。それに担当する顧客層が変わったために、販売戦略の学習にも時間をと
   られた。
    こうしたなかで、4年目の6月に昇格後初めての成果を出すことができたが、その頃に
   は、心身の状況が悪化しており、精神科医師のところに一度通院したが、その後まもなく
   死亡した。」
    『過労自殺と企業の責任』


 ◇ 『窒息するオフィス 仕事に圧迫されるアメリカ人』
    ジル・A・フレイザー著
    (岩波書店 2003年)
    『窒息するオフィス』
   「かつては、この国の巨大企業はホワイトカラーから、夢見る価値のある仕事の場と思わ
   れていた。経済的安心、快適な労働条件、バランスのとれた職業生活家庭生活の見透し、
   その他さまざまな経済的恩恵を提供していたのである。第二次世界大戦後の前半の2、3
   0年は、成功した企業とその従業員は、経済的繁栄の成果を共有し、今と比べて、家族主
   義的な慣行が職場関係を支配し、そうした慣行が企業と従業員の間の長期的な絆を作り出
   すことに役立っていた。
    こうした戦後初期の雇用戦略は、1970年代にアメリカ経済の世界的優位性を脅かす
   さまざまな経済的問題が起きたあと、評判の悪いものとなった。企業に迎合的な政府政策
   と金融業界による強引な介入のために、1980年代は、職場の荒廃をともなう企業改革
   (リインベンション)という混乱の時代の先触れとなった。ここにいたるまでにビジネス
   界のルールと報酬は変化した。仕事の要求度とストレスの量は上昇する一方であったが、
   繁栄の報酬を分かち合える方法は、給料と諸手当ではなく、株式市場を通ずる道でしかな
   かった。」


 ◇『過労自殺と企業の責任』
    川人 博著  岩波新書(1998.4)
   「96年3月に東京地裁で大手広告代理店・電通事件の判決が出され、自殺の原因が仕事
   の過労によるものと認められた。それ以降、もともとは脳・心臓の過労死のために有志の
   弁護士・医師らで設けていた「過労死110番」窓口への自殺相談が相次ぐようになった。
   そして、97年10月18日に実施した『自殺過労死110番』には、1日だけで146
   件もの相談が殺到した。そのうち60件が自殺既遂のケースだった。」(はじめに より)


 ◇ 『死ぬほど大切な仕事ってなんですか』
      全国過労死を考える家族の会=編  
    (教育資料出版会) 1997年
   「日本の労働条件というものはどうしてこんなに無権利で、だれにも守られないのだろう。
   日本の会社の中で権利や人権が守られていると信じながら働いている人なんてどのくらい
   いるのだろう。なんにも守られていない、文句も批判もいうことができないという無力感
   の中で、長時間労働や過酷な労働に従事している人はたくさんいることだろう。労働基準
   局といったものもどうもわれわれの味方でないらしい。労働組合も力を失っている。われ
   われは無権利で無法な労働条件の中で働かざるをえないんだという思いを強くしてゆくだ
   けだ。どうもこの国には労働の契約にたいする警察のような存在がなくて、優越的地位の
   乱用にあたるような企業の専制がまかり通っている。過労死はそんな力関係のなかで生ま
   れている氷山の一角でしかない。


 ◇ 『KAROSHI』 [過労死] 国際版
    過労死弁護団全国連絡会議編
    窓社 (1990年)

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