いじめ・メンタルヘルス労働者支援センター(IMC)

 労 働 安 全 衛 生


      「社員の病は会社の病 会社の病は社会の病」

 メンタルヘルス・ケア
 職 場 復 帰 支 援
 自 殺 防 止 対 策
 関 連 資 料 等
 ・『本』の中のメンタㇽへ
  ルス(日本編 海外編
  軍隊編)

 海外の メンタル
    ヘルス・ケア
  ILO・EU
  韓国の メンタル
    ヘルス・ケア


   『労働衛生の3管理』は順序が大切

   2003年1月27日号『日経ビジネス』は『社員の病は会社
  の病』の特集を組みました。しかし主治医や会社の産業医・保健
  スタッフだけでは「会社の病」は治療できません。
   もっと掘り下げると『会社の病は社会の病』です。会社や政府、
  そして労働組合はもっと真剣に取組む必要があります。

   荒井千暁医師は、著書『職場はなぜ壊れるのか-産業医が見た
  人間関係の病理-』(ちくま新書)で「労働衛生の3管理」を取
  り上げています。
  「労働者が健康を害さないよう措置を取る『労働衛生の3管理』
  とは何か。『作業環境管理、作業管理、健康管理』で、これにつ
  いては順序が大切です・・
   労働組合はこのことをもう一度自覚する必要があります。『作
  業環境管理、作業管理』を抜きにして『健康管理』はありえませ
  ん。」




  ゆったり働こうキャンペーン



    「メンタルヘルス対策は一次予防が重要」

    「予防医学」には一次予防、二次予防、三次予防
   があります。予防医学は、病気を予防するだけでな
   く、疾病予防、障害予防、寿命の延長、身体的・精
   神的健康の増進を目的としています。
    一次予防は、生活習慣の改善、生活環境の改善、
   健康教育による健康増進を図り、予防接種による
   疾病の発生予防、事故防止による傷害の発生を予防
   することをいいます。
    二次予防は、発生した疾病や障害を検診などによ
   り早期に発見し、早期に治療や保健指導などの対策
   を行ない、疾病や傷害の重症化を予防することをい
   います。
    三次予防は、治療の過程において保健指導やリハ
   ビリテーション等による機能回復を図るなど、社会
   復帰を支援し、再発を予防することをいいます。

    メンタルヘルス対策は一次予防が重視される必要
   があります。未然防止は、具体的には長時間労働・
   過重労働の禁止、ストレス発生原因の解消などです。




     「ハインリッヒの法則」

    アメリカの技士のハインリッヒは、労働災害の統計
   を分析した結果から法則を導き出しました。
   「1件の重大災害(死亡や重症)が発生した場合、そ
   の背景には29件の軽症事故とともに300件のヒヤ
   リ・ハットがある。1人の求職者や自殺者がでる環境
   には、そうなっていた可能性をもつ例が29人おり、
   精神をゆさぶられている予備軍が300人いるという
   ことになる。」
     「1対29対300の法則」 とも呼びます。





  ◇「リスク・ホメオスタシス理論」

   リスク・ホメオスタシス理論は、1982
  年にカナダの交通心理学者ジェラルド・ワイ
  ルドが提唱した考え方で、「どんなに進歩し
  た安全装置を自動車に装備しようと、どんな
  に道路を改良しようと、あるいはどんなに交
  通違反の取り締まりを強化しても『事故率は
  変わらない』」です。「安全対策がうまくい
  っていないということではなく、安全になっ
  たために生じる新たな危険による事故が増え
  るから」です。
  「原因は、状況が大きく変わる中で、人間と
  機械やシステムの分担領域が変化することに
  ある。・・・どんな機械やシステムでもそう
  だが、開発された当初は機械やシステムが担
  当する領域はあまり広くない。そのため最初
  は人間が注意をしながら使うが、この注意が
  およばない場所で起こるのが最初のパターン
  の事故やトラブルである。
   そのうちに技術が進むと、機械やシステム
  の分担領域が大きくなり、従来起こっていた
  ような事故やトラブルは起こらなくなる。し
  かしながら、機械やシステムが進歩した分、
  人間の側のそれらの依存度がますます高くな
  り、そのことが逆に危険を大きくするのが常
  である。この危険は、人間にとって便利にな
  った分だけ・・・事故やトラブルになったと
  きに暴れるエネルギーが大きくなっている。
  なおかつ人間のほうは注意力が著しく下が
  り、『機械やシステムがやってくれるはず』
  と信じているから、こうした錯覚が生じたと
  ころで、従来は考えられなかった、信じられ
  ないほど大きな事故やトラブルが生じること
  がある。」(寺田虎彦『天災と国防』(講談
  社学術文庫)の畑村洋太郎東大名誉教授の解
  説)
  『活動報告』21.3.9



  ◇「参加型の職場環境改善」の
      「職場ドック」とは

   労働科学研究所の機関誌『労働の科学』2
  014年10月号は「『職場ドック』のちか
  ら――新しいメンタルヘルス改善のプログラ
  ム」を特集しました。
   職業性ストレスに関連する多領域の要因に
  ついて、職場環境や働き方の改善手法を産業
  保健スタッフ目線のアプローチで容易化した
  ものです。計画(Plan)から実施(Do)、
  見直し(Check)、継続改善的方針の確認
  (Act)までのPDCAステップを職場に合
  わせて展開できるようわかりやすく、実施し
  やすく開発されました。

   最初に取り組んだ高知県庁の報告です。
   これまでの取り組みは、個人へのアプロー
  チが中心でした。メンタルヘルス不調の要因
  としては、働き方や職場環境が原因と考えら
  れたり、その悪化要因に関連しているケース
  もありますが、対策が難しいのが現状であ
  り、今後は織組へのアプローチが必要ではな
  いかと考えました。そしてストレスが少ない
  働きやすい職場づくりを目指し、職場のメン
  タルヘルス対策としての職員参加型の職場環
  境改善事業に取り組むことにしました。実施
  の成果として、長期病休者数も若干ですが、
  横ばいから減少傾向にあるといいます。
   取り組みやすい6つの項目を盛り込んだ
  「メンタルヘルス アクションチェックリス
  ト」を作成しました。
   A.ミーティング・情報の共有化(業務量
    の配分なども含む)
   B.on(仕事)・off(休み)のバランス
    (ノー残業デーなどの目標、休日・休憩
    時間の確保など)
   C.仕事のしやすさ(レイアウトや動線の
    改善、書類等の保管方法、ミスや事故の
    防止)
   D.執務内環境の整備(空調環境・視環境
    ・音環境、受動喫煙の防止、休養設備、
    緊急時対応)
   E.職場内の相互支援(相談しやすさ、チ
    ームワークづくり、職場間の相互支援)
   F.安心できる職場の仕組み(セルフケア
    の推進、スキルアップの研修、相談窓
    口、職場の設備や環境の整備)
   「チェックリスト」と合わせて、個人用ワ
  ークシート、グループ討論用ワークシート、
  改善事例シートが作成されていて、これらを
  用いて職場ごとにグループ討論し、改善計画
  をたて、それぞれ環境の改善に取り組みま
  す。
   ここで配慮したのは、まず自分たちの職場
  の良い点を職場で共有することで、次に改善
  点を「働きにくさはどこにあるか」「どこを
  改善すれば働きやすくなるか」「そのために
  自分達でどんなことができるのか」といった
  視点で話し合い、できることから、特に簡単
  で手軽にできることから楽しみながら取り組
  んでいくということです。

   取り組みを進めるためのマニュアル「職場
  ドックを成功させるための6か条」です。
   ・職員の集め方、場の持ち方はその職場に
    あった方法で(チーム会やチーフ会)
   ・リーダーを決めると良い
   ・管理職はオブザーバー的存在で温かく見
    守って
   ・簡単に、手軽にできるところから始める
   ・楽しみながらやるとアイディアも出やす
    い
   ・やる前からあきらめは禁物

   参加型職場環境改善に取り組んだ事業場へ
  のインタビューでは様々な変化が確認された
  といいます。
   労働者の変化としては、労働者は、当事者
  として参加することで、安全や健康に対する
  意識の向上や参加型アプローチに対する肯定
  的な理解、自主的に行動する力の獲得という
  意識や行動レベルでの変化が生じました。
   推進者は、安全や健康の基本的な知識を得
  たり、意識が向上するといった変化よりも、
  職場のリスクを常日頃から把握し、適切な対
  策をとることの重要性への気づきといった意
  識・行動面の変化が生じました。
   職場組織全体の変化としては、職場全体の
  雰囲気の肯定的な変化、相互理解とコミュニ
  ケーションの促進、職場全体の一体感と結束
  力の強化、職場全体への取り組みの浸透と拡
  大がみられました。
  『活動報告』15.10.2




 ・「第13次労働災害防止計画」
    平成30年2月 厚生労働省
   「ウ 職場におけるメンタルヘルス対策等の推進
    (ア)メンタルヘルス不調の予防
   ・ストレスチェック制度について、高ストレスで、かつ医師による面接指導が必要とされ
   た者を適切に医師の面接指導につなげるなど、メンタルヘルス不調を未然に防止するため
   の取組を推進するとともに、ストレスチェックの集団分析結果を活用した職場環境改善に
   ついて、好事例の収集・情報提供等の支援を行い、その取組を推進することで、事業場に
   おける総合的なメンタルヘルス対策の取組を推進する。
    ・ 産業保健総合支援センターによる支援等により、小規模事業場におけるストレスチェ
   ック制度の普及を含めたメンタルヘルス対策の取組を推進する。
    ・ 事業場におけるメンタルヘルス対策について、労働者の心の健康の保持増進のための
   指針(平成18年健康保持増進のための指針公示第3号)に基づく取組を引き続き推進す
   るとともに、特に、事業場外資源を含めた相談窓口の設置を推進することにより、労働者
   が安心してメンタルヘルス等の相談を受 けられる環境を整備する。」

   ストレスチェック制度は果たして有効なのでしょうか。メンタルヘルスケアにおいては二
   次予が優先されると体調不良は「自己責任」になってしまいます。
    「第13次労働災害防止計画」
    「第12次労働災害防止計画」
    ≪活動報告≫ 2018.4.3


 ・通達 「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」
    平成27年11月30日  厚労省
    改正 平成27年11月30日 公示第6号(昭和63年9月1日 公示第1号)
   「2 メンタルヘルスケアの基本的考え方
    ストレスの原因となる要因(以下「ストレス要因」という。)は、仕事、職業生
   活、家庭、地域等に存在している。心の健康づくりは、労働者自身が、ストレスに
   気づき、これに対処すること(セルフケア)の必要性を認識することが重要である。
    しかし、職場に存在するストレス要因は、労働者自身の力だけでは取り除くこと
   ができないものもあることから、労働者の心の健康づくりを推進していくためには、
   職場環境の改善も含め、事業者によるメンタルヘルスケアの積極的推進が重要であ
   り、労働の場における組織的かつ計画的な対策の実施は、大きな役割を果たすもの
   である。」
   「職場における心の健康づくり」
   「労働者の心の健康の保持増進のための指針」


 ・「第12次労働災害防止計画(平成25年度~29年度)」
    平成25年2月25日 厚生労働省
   「イ 重点とする健康確保・職業性疾病対策
   (現状と課題)
   ・健康面では、労災認定件数が増加している精神障害を防止するためのメンタルヘルス対
   策や、労災認定件数が減少していない脳・心臓疾患を防止するための過重労働対策に対し
   て引き続き重点的取組が必要である。
    メンタルヘルス不調者を増やさないためには、労働者自身によるセルフケアをはじめ、
   管理監督者や産業保健スタッフによるケアなどにより、メンタルヘルス不調者の早期発見
   ・早期治療を進めるとともに、メンタルヘルス不調になりにくい職場環境に改善していく
   ことが必要である。」

   この手順は一次予防がおろそかになり二次予防中心になります。
   「第12次労働災害防止計画」
   「第13次労働災害防止計画」


 ・労働者の健康を守るために 過重労働による健康障害防止対策
   厚労省 
    平成23年2月16日改正 (平成18年3月17日)
   「事業場トップの過重労働対策に対する方針は、過重労働を防止する企業風土をつ
   くることを目標としましょう。方針の決定には、労働者の意見を聴くことと、社内
   的な合意形成が重要となります。
    方針を決定したら、文書等により全労働者に周知徹底します。人事労務部門や産
   業保健部門が勤務状況などを検討した上で、方針を役員会議などで決定した事業場
   の事例では、過重労働対策が効果的に運用されている実績があります。」
   「過重労働による健康障害防止対策」


 ・「今後の職場における安全衛生対策について(建議)」
    (平成22年12月22日  労審発1222第597号)
    「今後の職場における安全衛生対策につい(建議)」
    この中の「4 職場におけるメンタルヘルス対策の推進」の、「新たな枠組」がこの後、
    ストレスチェック法に繋がっていきます。
    ≪活動報告≫ 2011.3.30


<    ≪通 達≫
 ・ 「事業場における労働者の健康保持増進のための指針の
      一部を改正する指針」 の周知等について
     (平成19年11月30日  基発第1130001号)
     「事業場における労働者の健康保持増進のための指針の一部を改正する指針」 の周知等に
     ついて

   「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」一部改定
     (平成19年11月30日  健康保持増進のための指針公示第4号)
      「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」
 ・ 「労働者の心の健康の保持増進のための指針について」
     (平成18年3月31日  基発第0331001号)
     「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

   ≪労働安全衛生対策資料≫
 ・ リーフレット 「職場における健康づくり
     ~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」
    「職場における心の健康づくり」
 ・ パンフレット 『職場におけるメンタルヘルス対策に関する調査』
     独立行政法人 労働政策研究・研修機構  2012年
     『職場におけるメンタルヘルス対策に関する調査』
     ≪活動報告≫ 2012.5.22
 ・ 「今後の職場における安全衛生対策について (建議)」
     (平成22年12月22日  労審発1222第597号)
     「今後の職場における安全衛生対策につい (建議)」
     この中の 「4 職場におけるメンタルヘルス対策の推進」 は、いわゆる 「新たな枠組」 につい
     てれています。
     ≪活動報告≫ 2011.3.30
 ・ 特集:健康と労働
   ・健康と労働
     編集委員会
   ・健康状態と労働生産性
     湯田 道生 (中京大学経済学部准教授)
   ・安全 (健康) 配慮義務論の今日的な課題
     和田 肇 (名古屋大学大学院法学研究科教授)
   ・健康上の問題を抱える労働者への配慮
      ――健康配慮義務と合理的配慮の比較
     長谷川 珠子 (独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構障害者職業総合センター研究員)
   ・座談会 多様な健康状態の労働者と人事管理
     大内 伸哉 (神戸大学大学院法学研究科教授) 佐野 嘉秀 (法政大学経営学部准教授)
     人事担当者 3名  労組役員 3名
   ・職場復帰をいかに支えるか
      ――リワークプログラムを通じた復職支援の取り組み
     有馬 秀晃 (品川駅前メンタルクリニック院長)
     など
     『日本労働研究雑誌』2010年8月号 独立行政法人 労働政策研究・研修機構
     『日本労働研究雑誌』
 ・ 『メンタルヘルス対策に関する研究
     -対策事例・欧米の状況・文献レビュー・調査結果-』
     『調査研究報告書No.144』 01.9  労働政策研修・研修機構
     「メンタルヘルス対策に関する研究」
     「3. 若者向け公的相談機関:仕事、職場の悩み、ストレスの相談が増加
      近年の経済環境悪化のため、能力・スキルがあってもリストラの対象になるケースが増加し
     ている。これに伴い、来談者の年齢層も中高年が増加する傾向にある。勤務先からの「戦力外
     通告」と受け取れることを言われ来所するケースもあり、スキルアップとともに自信や信頼感の
     回復にも務めている。。一方で、20代後半の若年層の相談も減少していない。採用時に即戦
     力として求められることが多い一方、広い意味での能力開発の機会が減少している。このため
     職場での些細なトラブルでも、対処できないケースが増加している。上司との軋轢に悩む若者
     の相談も多い。企業の業績悪化にともなうマイナスの連鎖でストレスが生成され、メンタルヘル
     スを損なっていると考えられる。」

    人はミスをする

   「芳賀繁の著書『事故がなくならない理由』によれば、ヒューマンエラーの概念は19
   70年から注目されてきたという。機械があまり壊れなくなったために、自己原因に占
   める人間の作業ミスの割合が増えたこと、システムが複雑化・巨大化したために、1つ
   のミスが大きな被害をもたらすようになったことが理由だった。芳賀はこう書く。
   〈「事故の多くがヒューマンエラーになって起きているので、設備ではなく人間の意識
   や注意力を高めることで事故を防ぐ必要がある」などと言う人がいるが、それはヒュー
   マンエラーという概念を誤解している。ヒューマンエラーはシステムの中で働く人間
   が、システムの要求に応えられないときに起こるものなのだから、対策は設備を含めた
   システム全体で考えるべきである〉
   〈一般には、ヒューマンエラーは善意の作業者が誠実に任務を遂行しているときに意図
   せずおかしてしまう失敗をさすので、意図的におかされる違反や、危険を認識しながら
   敢行されるリスク・テイキング行動とは分けて考えるほうがよいだろう〉・・・
    人はミスをする。ヒューマンエラーは、単に「事故」の原因ではなく、それ自体がさ
   まざまな要因で引き起こされた「結果」である。それを前提に、ミスした場合に被害
   を食い止めるハード整備と併せて、ミスを誘発する要因を事前に見つけ、最小限に抑え
   る予防の仕組みが必要になる。 ・・・
    正確な報告を数多く集めるには、公正な判断とミスを罰しないことが必要となる。報
   告したら処分や訴追されるのではミスを隠すのが人間の心理だからだ。
    こうして、ヒューマンエラー非懲戒の考えが浸透していった。」
    (松本創著『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』東洋経済新報社)
   ≪活動報告≫ 18.7.24



    司法で原因究明はできない

   「ここで取り上げられているのは、まさしく『責任追及』と『原因究明』の問題であ
   る。・・・
    日本の法律では、被害者のいる事故については司法が原因を究明し、責任追及を行う
   ことになっている。・・・そして、この責任追及が抑止力になって、事故の再発防止が
   実現できるというのが刑法学者たちの考えである。
    実際には、世の中の多くの人はそのように見ていない。司法は原因究明と責任追及の
   両方を行なっていて、法定の場で原因が明らかにされることで事故の再発防止の対策が
   進と信じている。これは大きな誤解である。・・・
    司法の仕事はあくまで、犯人を捕まえて責任を追及することにある。司法が行ってい
   る原因究明というのはそのためのものなのだ。そもそも多くの人が期待しているよう
   な、究明した原因を事故の再発防止につなげるかつどうなど一切していないのである。
    ・・・
    よく考えればだれにでもすぐにわかることだが、責任追及と原因究明をセットで行う
   と、本当の原因を明らかにしにくいという問題がある。責任を受ける側にしてみると、
   原因究明の調査に協力することは、そのまま自分の首を絞めることになる。」
    (寺田虎彦 『天災と国防』(講談社学術文庫)の畑村洋太郎東大名誉教授の解説)
   ≪活動報告≫ 21.3.9



    早期発見と予防のため3つの提案

      
  「今回の特徴は、胆管がんとの関係が知られていなかった
  1、2ジクロロプロパンなどを労働者が吸ったことで発症し
  たことと、この化学物質が規制されていなかったことだ。早
  期発見と予防のため3つの提案をしたい。
   第一に、法的規制がない化学物質でも、健康被害が発生
  すれば事業主の責任だと明確にすることだ。
   ……事業主の責任を法的に明確にすることで、未規制の物
  質の安全対策を十分、実施した上で使うようになるだろう。
   第二に、健康を守るための労働者の知る権利、予防のため
  職場改善に参加する権利を強化、確立することだ。……
   労働者が化学物質対策の決定に参加する権利も欠かせな
  い。……労働者が職場改善に関われるように法令を改めるべ
  きだ。
   第三に、医師らが異常な病気の発生などを発見した際、労
  基署に通報するシステムが必要だ。……特定の感染症は発生
  の報告が義務づけられていることにならい、異常事態を医療
  現場から労基署などに通報するシステムを構築すれば、予防
  に効果的だ。」
  ≪活動報告≫ 13.5.28
  毎日新聞 13.3.14



  行政の進める労働安全衛生モデルは軍隊

   精神科医の島悟医師が雑誌の座談会で次のように語っています。
  「行政の進める労働安全衛生のモデルは軍隊なんですね。産業保健スタッフで言えば、産
  業医は軍医、衛生管理者は衛生兵です。『場の管理』が基本なんです。それぞれの現場で
  使っている有機溶剤や薬剤など危険物の種類の違いなどに対応するために『場を管理す
  る』という発想。実際のオフィスワークの場合はどこでも同じですよね」

   「場を管理する」とは具体的にどのようなことを言うのでしょうか。
  「ジェノサイド(大量殺戮)の恐ろしさは、一時に大量の人間が殺戮されることにあるの
  ではない。『そのなかに、ひとりひとりの死がないということが、私にはおそろしいのだ。
  人間が被害においてついに自立できず、ただ集団であるにすぎないときは、その死におい
  ても自立することなく、集団のままであるだろう。死においてただ数であるとき、それは
  絶望そのものである。』(石原吉郎著『望郷と海』ちくま学芸文庫)」
  「総力戦としての戦争は、民衆が戦争に総動員され、その生命が危険に晒され奪われると
  いうばかりでなく、人々をまさに『数』や『モノ』や『原子的存在』へと貶める極限を生
  み出した。」(三谷孝編『戦争と民衆 戦争体験を問い直す』旬報社刊)

   「場を管理する」政策は、画一的対応・管理をし、労働者を集団としか見ません。
   現在の競争社会においては会社も労働者を「数」や「モノ」や「原子的存在」としか見
  ていません。



  有害か無害か、危険か安全かの境界は社会的な概念

    チッソの責任追及をしていく中で、医師の原田正純さんは患者や支援者、医師たちと
   学習会を続けます。そのなかで核爆発実験の放射能をめぐる武谷三男著『安全性の考え
   方』と出会います。
    原田さんは、著書『水俣病』の中で孫引きをして紹介しています。

   「死の灰が地球上にふりまかれているときに、一部の学者は、科学的に降灰放射能の害を証明
   することはできないから、核爆発実験は許されると主張した。アメリカ原子力委員のノーベル
   賞学者リビー博士は、許容量をたてにとり、原水爆の降灰放射能は天然の放射能に比べると少
      
  ないから、その影響は無視できると主張した。微量の放射能の害はすぐに
  は病気にならない、すなわち急性症状を示さないところに、非常に困難な
  問題があったのだ。
   武谷三男氏らは、『許容量というのは、無害な量ではなく、どんなに少
  量でもそれなりに有害なのだが、どこまで有害さを我慢するかの量、すな
  わち有害か無害か、危険か安全かの境界として、科学的に決定される量で
  はなく、社会的な概念であること。害が証明されないというが、現実にそ
  ういうことをやってみて、そうなるかどうかはじめて証明されるといいう
  のでは、科学の無能を意味し、降灰放射能の害が証明されるのは人類が滅
  びるときであり、人体実験の思想に他ならないこと。放射能が無害である
  ことが証明できない限り、核実験は行うべきではないというのが正しい考
  えである』ことを明らかにした。
  ≪活動報告≫ 12.7.20



  よろけ撲滅は社長がやらねばならぬ仕事ではないか

    戦後の労働組合の取り組みの流れです。
    終戦直後の1946年6月8日、古河鉱山がある栃木県足尾町で食糧難打開を主目的
   とした鉱山復興町民大会が開催されました。大会には足尾同盟会(後の足尾鉱山労働組
   合)などの労働組合も参加しました。鉱山の機械夫だった蘇原松次郎さんが発言します。
   「日本建設にはまず、地下資源を開発することだ。そのために第一に<よろけ>のない
   職場をつくることだ。第二に罹患者や家族に対して、完全な国家補償が必要である。鉱
   山に働く労働者が安心して働ける社会をつくることが、敗戦日本を立ち直らせる近道で
   ある」
    蘇原さんは本社社長から呼びつけられます。馘を覚悟しました。
    同行した足尾同盟会の生田龍作会長が社長に言います。
   「何を馬鹿なことをいう。よろけ撲滅は労働者がやるのではなく社長がやらねばならぬ
   仕事ではないか」
    蘇原さんは事なきをえました。
    <よろけ>(珪肺)撲滅の訴えの波紋はまず金属鉱山の労働組合に広がり、翌年、全
   日本金属鉱山労働組合連合会は珪肺対策と特別法制定を運動目標にかかげました。
    企業も取り組みを始めます。
    このようななかで55年3月「塵肺法」、7月「珪肺等特別保護法」を制定させます。
   (『メンタルヘルスの労働相談』より)
    しかし法律が制定されたからといって、対策が進んだということではありません。
    江戸時代後期から問題が指摘されている塵肺問題はまだ根本的解決に至っていません。
   ≪活動報告≫ 12.2.10



  メンタルヘルス対策

     かつてはこんな使用者が

    明治維新後、日清戦争を経て産業革命が進んで労働者が増大すると労働環境が及ぼす
   影響も社会問題となり、生理的、精神衛生上の影響についての研究も開始されました。
    1919年2月(大正8年)、倉敷紡績の経営者大原孫三郎は「社会問題研究所」を
   設立します。

   「孫三郎は社会問題研究所だけでは満足しなかった。
    社会そのものを相手にするだけではなく、経営者としては現実の労働環境も気がかりで
   あった。
    従業員を人間として人格として遇するという以上、当然、日々働く環境を健康的なもの
   にしなくてはならない。……倉敷では真夏の暑さが少しでも減るように、工場の煉瓦壁に
   蔦を這わせることにしたり、井戸水を循環させる冷房装置をとり入れるなどしてきた。
    万寿工場の換気をよくするため、大きな換気塔も建てた。煙突ならぬ『塵突』と呼ばれ
   たこの赤煉瓦づくりの塔は、遠くからもよく見え、倉敷の名物にもなった。
  
      
  ただ、孫三郎はそうした対症療法に満足せず、社会問題研究所の中に、
 疲労生理実験室を設けさせたが、その担当者である若い医学士暉岡義等に
 目をつけた。……
  孫三郎は快諾し、暉岡の希望通り、万寿工場敷地内の工場と寄宿舎の中
 間の空地に生理学研究所、心理学研究所、栄養研究所などから成る研究所
 をつくり、若手の研究院を揃え、『倉敷労働科学研究所』の名の下にまず
 工場疲労問題の調査研究にとりかからせた。」(城山三郎著『わしの目は
 十年先が見える―大原孫三郎の生涯―』新潮文庫)

  労働科学研究所ではテイラーの「科学的管理法」に対する学問的検討や
 産業労働の生理学的・心理学的研究が開始されます。
 ≪活動報告≫ 12.4.20


 ☆ 精神保健委員会(プロジェクト)答申
   日本医師会からの諮問に対する精神保健委員会の答申
   平成26年3月
   「目 次
   1.子どものメンタルヘルス対策のあり方
    3)教師のメンタルヘルス
     ②教師の病気に伴う休職・退職
   2.働き盛り世代へのメンタルヘルス対策のあり方
    1)職場におけるメンタルヘルスの現状
     ①職場における長期休業者の実態
    2)職場のメンタルヘルス工場のためのポイント
     ④復職支援に関して
   「精神保健委員会(プロジェクト)答申」


 ☆ 外国人労働者のメンタルヘルスと心理援助の現状と展望
   臨床心理学コース 李健實
   東京大学大学院教育研究科紀要 第52巻 2012
   「外国人労働者にとっては、日本の職場が異なる文化を持つ集団であることを考え
   ると、労働環境や仕事を理解する際にも、異文化による誤解や仕事を理解する際に
   も、異文化による誤解や不理解による困難が生じることが考えられる。……
    まず、労働環境として、労働時間、仕事の内容、母国での経歴・学歴と日本にお
   ける仕事とのギャップなどが挙げられる。
   「外国人労働者のメンタルヘルスと心理援助の現状と展望」


 ☆ 特集 特集―職場のメンタルヘルス対策
   「メンタルヘルス不調にどう対応すべきか」
    産業医や企業の先進的な取り組み事例
     業務遂行レベルに着目した対応
   岡山大学大学院・高尾総司医師
   Business Labor Trend 2011.7
   「メンタルヘルス不調にどう対応すべきか」


 ☆ 特集 健康と労働
   ・健康と労働
     編集委員会
   ・健康状態と労働生産性
     湯田 道生 (中京大学経済学部准教授)
   ・安全(健康)配慮義務の今日的課題
     和田 肇 (名古屋大学大学院法学研究科教授)
   ・健康上の問題を抱える労働者への配慮
     ――健康配慮義務と合理的配慮の比較
     長谷川 珠子 (独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構
             障害者職業総合センター 研究員)
  ・座談会 多様な健康状態の労働者と人事管理
    大内 伸哉(神戸大学大学院法学研究科教授) 佐野 嘉秀(法政大学経営学部
    准教授) 人事担当者 3名  労組役員 3名
   ・職場復帰をいかに支えるか
     ――リワークプログラムを通じた復職支援の取り組み
     有馬 秀晃(品川駅前メンタルクリニック院長)
   『日本労働研究雑誌』2010年8月号 独立行政法人 労働政策研究・研修機構
   『日本労働研究雑誌』


 ☆ 特集 ― 働き方をめぐる新たな課題
   ・職場のメンタルヘルスをめぐる最近の課題
     メンタルヘルスケア・ジャパン 2010
     会議各企業の報告から
     調査・解析部 査新井栄三

   ・インタビュー 「増加傾向にある若年層を中心とした
     『現代型うつ』について
     長野展久 東京海上日動メディカルサービス取締役医療本部長に聴く
   『Business Labor Trend』 2010.8
   働き方をめぐる新たな課題


 ☆ 「産業精神保健の歴史(2)
    ―1980年代から1990年代前半まで―」
   静岡大学人文学部 萩野達史
   静岡大学学術りぽじとり  2011.7.27
   「ここで多少とも興味深いのは、旧労働省の踏み込み方である。1980年から医
   系技官として旧厚生省に入ったのち、1986年に旧労働省へ出向、上記の二つの
   取り組みから後述するトータル・ヘルスプロモーション・プラン(THP)にも中
   心的に関わることになった精神科医・河野慶三が回想として以下のようなことを述
   べている。
    シルバー・ヘルスプロモーション・プラン(SHP)のなかで設置された「スト
   レス小委員会」の作成した「企業におけるストレス対応の指針」については、旧労
   働省はかなりその関与の度合いを弱めたというのである。
    当初は、労働省労働基準局通達として出すことが考えられていた。しかし、『メ
   ンタルヘルスの問題は、あくまでも企業もしくは労働者個人が処理すべきもので、
   行政は直接関与しないほうがよい』というそれまでの労働省の基本的な考え方に押
   し切られ、国の定める指針とはならなかった。…(中災防が冊子を発行し)…指針
   を広めるための講演会を北海道・東北・関東などブロック単位で全国的に行ったが、
   行政からの支援も乏しく、尻すぼみとなった。(河野 2005:82‐83)
    だが、産業医学振興財団が同じく1986年に出したテキスト『労働衛生管理に
   おけるメンタルヘルス』については、「『指針』に比べるとはるかに行政主導的」
   であったと述べている。」
   「産業精神保健の歴史」


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