いじめ・メンタルヘルス労働者支援センター(IMC)




















  『本』の中のメンタルヘルス 軍隊・戦争




    帰還兵のトラウマ治療を担当
      小児精神科医、ハーバード大学准教授 内田舞著
       『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』(文春新書)

     その後、私は医師になり、イェール大学研修医時代にはアメリカの退役軍人のための病院
    (Veterans Affairs)で精神科医として、ベトナム戦争帰還兵や、当時、現在進行中だったアフ
    ガニスタンやイラクでの戦争から帰ってきたアメリカ兵達のトラウマ治療を担当しました。
     彼らから直接聞いた体験はどれも凄まじく想像を絶するもので、しかし多くの兵士が戦争に付
    随する恐怖体験以上に、自分がしてしまった、あるいはできなかったことへの罪悪感に苦しめら
    れていること、そしてその心の痛みの深さをも学ばせてもらいました。
     その中でも強く思い出に残っているのが、ベトナム戦争の帰還兵のAさんとの会話でした。
      * * *
     妻に打ち明けた後もAさんの罪悪感とPTSDの症状は続きました。加えて、「あなたのせい
     ではない」とさらっと言い切る妻に関しては、「戦争でのトラウマの体験は今の自分にも影響
    を及ぼし続けている。その苦しみを妻が理解することはできない」とAさんはがっかりする様子
    を見せました。
     Aさんは繰り返し、「誰もが『兵隊本人のせいじゃない』と言うが、実際兵士がどんな思いか
    は理解していないんだ。頭では分かっていても、俺らは『俺らのせいじゃない』なんて微塵も感
    じないんだ」と訴えました。「論理的には自分のせいではないとわかっていながら、罪悪感から
    解放されることはない」というAさんの体験がいかに複雑で、自身でさえも自分の思いを整理す
    ることがいかに難しいかということを話し合いました。
     Aさんはベトナム戦争に関して、それが彼を「ボロボロにした」「戦争に意味なんてなかった」
    と繰り返し述べました。ベトナムにいる時は使命だと感じていたが、米国に帰るとすぐに戦争は
    「無意味」だったと気付いたと語りました。もしベトナムで兵士として行った仕事が世界にとっ
    て有意義であったと感じられたなら、今の人生も感覚も異なっていたのではないかと述べました。
     「意味のない戦争で若者をボロボロにするなんて、国としてやってはいけないことなんだ」と
    当時話題だったアメリカの中東への侵攻について、苛立つ気持ちがおさまらないとAさんはよく
    話していました。


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