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軍事工場に精神科の医者が協力
内村祐之著 『わが歩みし精神医学の道』
戦時中の労働力の調達はかなりの無理が行なわれました。軍部のスローガンは守られませんでし
た。戦時中の川西航空機、後の新明和工業の状況が城山三郎の小説『零(ゼロ)からの栄光』に書
かれています。
「正規の従業員だけでなく、徴用工や学徒動員などといった形で、人だけがむやみにふえていった。
各地方の動員署は、とにかく人数さえ揃えればよいと、かき集めるようにして送ってくる。……
さまざまの人が来た。米屋も床屋もコックも僧侶も、無差別に一個の労働力として送られてくる。
中には、入墨を見せびらかすヤクザも居れば、ガソリンを持ち出す不心得者も出た」
精神科医は戦時中もてはやされました。企業に乞われて精神衛生管理を行います。
「それは主として飛行機や船舶や兵器などの製造工場でであった。戦力補充のため、おびただしい
数の若い工員を、ほとんど無選択に徴用していたが、これらは全くの玉石混交で、多くの不良工員
のために、職場の協調は乱される、不良製品は出る、無断欠勤などが多くて増産の効果はあがらぬ
という始末。
困り果てた企業体は、精神医学の面での協力をわれられに依頼してきたのである。……
研究は、企業に入り、優良工員の問題、問題工員の問題、災害頻発者の調査、神経症の問題、適
性検査など多方面にわたった調査をおこなったが、その結果2つの点が特に印象的あった。……
第2の点は、だれしも予想通り、不良工員の問題である。……
そこで、われわれは、あれこれ試みた結果、まず、これらの者を正常工員の職場から離して、そ
の職場の受ける妨害的作用を取り除き、次に、不良工員だけのグループを作って、特別の量で、特
別の管理者のもとに、適当のリクレーションを交えた規則正しい生活をおこなわせるようにした。
そして独立した工場で、彼らだけの作業に従事させるとともに、このグループの作業成績がすぐれ
ているときには、適当に褒賞するようにしたのである。
これらの措置は、すこぶる効果を上げたが、これは当然予測できることであった。」(内村祐之
著『わが歩みし精神医学の道』)
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