★ 『トラウマ』
宮地 尚子著 岩波新書 (2013年)
「『心のケア』というとき、第一に必要なことは、『心のケア』=『メンタルヘルス』
を被災者・被害者に提供することよりも、『メンタリー・ヘルシー』な対応や施策を、
社会全体が心がけることだと私は思います。何がメンタリー・ヘルシーかというと、個
々の被災者・被害者が深く傷ついているということ、回復の道のりが新たなストレスを
もたらすこともあるということを認識しておくことです。その上で、当事者が希望やつ
ながりを感じられるようなビジョンを社会が一緒に考え、実行していくことだと思うの
です。対応や施策は、あくまでも当事者主権、被害者や被災者主導であってほしいと思
います。
トラウマ体験は、その人から安心感やコントロール感を奪い、無力感を刻みつけ、未
来への展望を失わせます。だからこそ、安心感とコントロール感を取戻し、未来を想像
しながら、自身の力を再び発揮できるようになることが、トラウマからの回復には大切
です。」
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★ 『傷を愛せるか』
宮地 尚子著 大月書店 (2010年)
「学会では米国の専門家による招待講演もあり、イラク戦争に参加した米兵のPTSD
研究の紹介がされていた。講演を聞きながらわたしは、『トラウマ研究は何時から、戦
っても傷つかない人間をふやすための学問になったのだろう』と思った。潤沢な予算が
PTSDの予防や治療の研究につぎ込まれることと、平然と戦地へ兵士を送り出すこと
は、米国では矛盾しない。米兵のPTSDの有無や危険因子は調査され、発症予防や周
期回復のための対策は練られるか、派兵をやめようという提案にはならない。イラクの
人たちのPTSDについては調査どころか、言及さえない。そのことに違和感をもつ人
はいないのだろうかと周囲を見回すが、みんな熱心に講演に聞き入っている。孤立感を
覚える。」
「傷を愛せるか」
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★ 『「心の専門家」 はいらない』
小沢 牧子 著 洋泉社新書(2010年)
「カウンセリング願望の背景には、お互いを値踏みしあう競争社会が広がっている。
『心の専門家』は基本的に没社会的で・個人還元的で、問題を社会の問題としてではく
く、個人の資質や家族のいたらなさ、つまり個人の問題へ閉じ込めていく役割を担って
いる。
この背景には、極限化する情報・消費社会を浮遊する個人の寄る辺ない心情が存在す
る。この心情は従って、カウンセリングとは限らず、宗教とも独裁とも結びつくような
ものである。透明なカプセルに一人ずる閉じ込められ外から値踏みされるような気分が
世の中を支配している。
自助努力、自己責任、個性の育成、規制緩和、自由競争、グローバリゼーション、ま
して負け組み勝ち組みなどの言葉は、能力主義の進行を意味している。
こうした社会的背景と関連して、(カウンセリングをイメージする)学生たちの記述
に、ひとまとまりになる言葉のグループ―『自分らしさの発見』という種類の内容をも
った―ものがある。
カウンセリングはきっと自分自身を発見させてくれる、自分らしさを引き出してくれ
る、本来の自分を見出すことができる、よりよい自分になれる、などである。じつは個
人は関係のなかに揺れ動く状況的存在で、相互に影響しあい、個別にそれぞれを括りだ
すことなどできないのだという、自明とも思われる観点は、ほとんど通用しなくなって
いる。『ほんとうの自分さがし』の流行には、人間が相互の関係のなかで生きているの
だという観点が欠落している。」
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★ 『戦争と民衆 戦争体験を問い直す』
旬報社刊
「トラウマの生存者は、過去の記憶と共に生きているのではない。終わることのない、
完了することがない<出来事>と共にあるのだ。生存者にとってその<出来事>は今も
続いている。トラウマは、あらゆる意味で現在進行形のものなのだ。」
「トラウマは、発せられた言葉だけでなく、語られた越えた領域――沈黙――に耳を澄
ますことを私たちに迫る。もし、生存者を痛みから解き放ち共に生きようとするのであ
れば。
ホロコースト生存者の語りと沈黙を聞いてきたD・ローブは、体験者が『証言者』と
してトラウマから旅立つためには、『真摯に耳を傾ける聴き手が、証言者が語りかける
相手』が必要だと強調する。『証言は独り言ではない。それは孤独のなかでは生まれて
こない。生き残った者は誰かに語りかけているのだ。長い間待ち続けた誰かに』
……トラウマから回復するには、他者の存在が重要だと指摘する。
心的外傷の体験の中核は何であろうか。それは、無力化(disempowerment)と他者
からの離断(disconnection)である。だからこそ、回復の基礎はその後を生きる者に
有力化(empowerment)を行い、他者との新しい結びつきを創る(creation of
connections)ことにある。回復は人間関係の網の目を背景にしてはじめて起こり、
孤立状態においては起こらない。生存者は心的外傷体験によって損なわれ歪められた
心的能力を他の人との関係が新しく蘇るなかで創り直すものである。」
(直野章子 論文 「原爆体験」)
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★ 『犯罪被害者の心の傷』
小西 聖子 著 白水社(2006年)
「まず、被害者カウンセリングの基本は聞くことである。そして、生々しい感情と
ともに整理されないままに残っているトラウマチックな記憶を、普通の記憶として
再構成することである。それから、被害者に再び生きる力を持ってもらうことであ
る。……
喪われたものは回復しない。被害は突然意味なくやってくる。努力が必ず報いら
れるとは限らない。理不尽なものだ。
被害者カウンセリングはそこから出発するしかない。回復しない被害を回復する
と言いくるめたり、やさしくない運命をほんとうはやさしいのだと言いくるめるこ
とは、被害者カウンセリングの本質とは反対のことである。そういうごまかしをい
っさいやらなくても、聞くことで人を援助することはできるのである。」
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★ 『生きるのがつらい。 「一億総うつ時代」の心理学』
諸冨 祥彦 著 平凡社新書(2005年)
「こうした人は、不平不満を言うことが、自分の存在証明になってしまっています。
彼らにとって人生の一番の喜びが、つらさを抱えていることにさえなってしまう
のです。不平不満を取り除いてしまうと、自分には何も残らない。愚痴や文句を言
う対象がなくなると、困ってしまうのです。
……
つらい現実に開き直り、復讐心が目覚めてしまうような人も、それに似た心理状
態にあると言えるでしょう。自分が人生の失敗者であることに、どこか会館や安定
感を覚えてしまっているのです。」
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★ 『傷つくのがこわい』
根本 橘夫 著 文春新書(2005年)
「プライドが高いから傷つきやすいのだと、単純に考える人がいます。そうではな
く、この高いプライドの根底には自己無価値観があるのです。高いプライドは、そ
の自己無価値観の上に立つ砂上の楼閣だからこそ、傷つきやすいのです。
こうした防衛的なプライドは、自分本来の充実感や満足感を大事にすることを放
棄して、自分の価値をもっぱら他の人の評価によって実感しようとすることです。
しかし、他の人がどう思うかは、その当人が決めることです。ですから、自己価値
が充実できるかどうかは、相手次第ということになります。
このために、防衛的なプライドを持つ人は、いつも他の人に蹂躙されているよう
な感じがします。……やはり傷つくことの根底には自己価値観の問題があるという
ことに至りました。
……しかし、復讐を誓って生きることは、自分の心を憎むべき相手によって支配
されてしまっていることです。相手に自分の人生を握られてしまっていることです。
ですから、憎しみの感情を秘めていても、相手にどう仕返しをするか心を向ける
のではなく、自分の夢に心を向けることです。夢の実現に現実のエネルギーを集中
して日々を過ごすことです。」
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★ 『黒い虹 阪神大震災遺児たちの1年』
あしなが育英会 廣済堂出版
阪神淡路大震災で親を亡くしたいわゆる震災孤児は569人にのぼりました。
あしなが育英会は、震災孤児の戸別訪問調査を行いました。
「今回の震災で『復興』という言葉が使われていますが、その言葉は嫌いです。私
たちみたいな者にとっては、壊れたものは壊れたものとしてそのまま残るんです。
心の傷は残ったままなんです。壊れたものや亡くした人を蘇らせることなんてでき
ない。やり直すのではなく、また新しいものを作っていこうとしなければならない
んだと思います。」
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